「僕は好きだなんて思っていない」
旦那がその手を払いのけて言った。
「好きだなんて思ったこともない!」
「は? 何言ってんの、おまえ?」
「あたしを、好きと思ったことがないって? それ、本気で言ってんの?」
「いや、今はほら…。その話をしていないというか…」
「ああ、なるほど。死にたいんだ?」
あたしは台所に向かった。
シンクの下のドアを開け、磨き上げた包丁を取り出した。
なにせあたしは、料理は嫌いだけど、包丁を研ぐのは好きだから。
包丁を研いでいると、なぜか心が落ち着くから。
落ち着くの、包丁大好き。
「ま、待て。何をしてるんだ」
旦那がソファから立ちあがった。
「え? 死にたいんでしょ? そうだよね?」
「ち、違う。今、僕たちが話すべきは…」
「じゃあ、答えて?」
あたしは包丁を正眼に構えながら一歩踏み出して言った。
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