ユリは誰がどう見てもクラスで一番の美人で、目立っていたから、名前を知っていた。
「あんた、プロレス好きなの? 珍しいね」
「え? あ、うん」
あたしは急に話しかけられて気が動転していた。
「誰のファン?」
ユリが大きな目を輝かせながら、そう聞いてきた。
あたしは一瞬何を聞かれているかわからなかったが、頭の中で質問を反芻し、どもりながら答えた。
「な、中邑真輔。し、新日派だし。ジャンボ鶴田はDVDで見たことが、あるだけ」
「あたしも新日派だよ。ってか、新日派って単語が出てくるのが本物っぽいね」
「え? そうなの? あ、あなたは誰が好き?」
中学時代、女の子とはプロレスの話ができなかったので、嬉しくなったあたしは思わずそう言った。
「西村修」
「うわっ、マニアック。ミスター無我」
思ったことが口を突いて出ていた。
「マニアック言うな。ってか、マニアックじゃねえし」
ユリが苦笑いしながら言った。
隣りでサトシが大笑いしていた。
▼次ページに続く▼